認知症とは
いろんなことが分からなくなる、徘徊や怒ったりしやすくなる、などの印象があると思いますが、実は定義があります。
「いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために社会生活に支障をきたすようになった状態」
というものです。
これは成年期以降に記憶や言語、知覚、思考などに関する脳の機能の低下が起こり、生活に支障をきたすようになった状態を指します。
ということは認知の障害であり、ものが覚えられなくなる記憶障害だけではなく、幻覚や幻聴を認める視覚や聴覚の障害、言葉が出なくなったり、理解ができなくなるような失語なども含まれるということです。
歳による物忘れと認知症の違いは
加齢によるものは物忘れの自覚があり、体験の一部が思い出せなくなります。
一方、認知症では物忘れの自覚が無く、記憶そのものが無くなることになります。
はっきり鑑別ができないこともありますが、例えば、加齢による物忘れでは朝食の何を食べたか思い出しにくくなったり、時間や場所を間違えたりしますが、認知症では朝食を食べたこと自体を忘れたり、時間や場所が分からなくなります。
加齢による物忘れではヒントがあると思い出せるのですが、認知症では思い出せません。
また加齢による物忘れの場合、日常生活は普通に送れますが、認知症では他の精神症状を伴うことが多く、日常生活が困難になります。
認知症の原因について
認知症を発症する原因は、大きく分けると2つあると言われています。
ひとつは、高齢者によく見受けられる、主に加齢によって脳の神経細胞の数が徐々に減少し、そのことで脳が変性を起こし、認知機能障害などが現れる変性性認知症です。
このタイプには認知症の中でも最も患者数が多いとされるアルツハイマー型認知症をはじめ、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などが含まれます。
もうひとつは、脳血管が発症することで認知症を招くとされる脳血管性認知症です。これは、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の発症を起因とする認知症になります。
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症は4大認知症と呼ばれ、この4つの疾患で認知症全体の約9割を占めると言われています。
またそれぞれが合併して発症することもあります。
主な認知症の種類
アルツハイマー型認知症
日本人の全認知症患者6~7割を占めます。
原因はまだはっきりとは分かっていませんが、一つの仮説として脳内にβアミロイドたんぱくが蓄積されることがリスク要因と考えられています。
これに加齢、ストレス、体質、環境など複合的な要因が加わることで、神経細胞が壊れて減少、これによって脳の神経が情報をうまく伝えられず、やがて機能異常を起こすなどして発症すると言われています。
また神経細胞の死滅によって、臓器でもある脳自体も萎縮し、脳の指令を受けている身体機能も次第に失われていきます。
アルツハイマー型認知症はその発症によって、記憶障害、見当識障害、思考障害(物盗られ妄想)などがみられるようになります。その他、特徴的な症状に取り繕いや振り返りなどがあります。
好発世代は70歳以上で、女性の患者数が多く、その割合は男女比で1:2ほどです。
脳血管型認知症
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった脳血管疾患を発症し、脳血管の血流が悪くなる、詰まるといったことによって脳細胞に酸素が十分に行き渡らなくなって脳の神経細胞が死滅、それによって発症する認知症です。
脳血管型認知症は日本人の全認知症患者のうち2割ほどを占めると言われていますが、脳血管障害を合併しているその他の認知症はもっと多いと考えられます。
同疾患の特徴ですが、障害部位にのみ認知機能低下が現れることからまだら認知症がみられるのも特徴です。
このほかにも神経症状(運動障害、感覚障害、言語障害 など)、喜怒哀楽のコントロールがきかない状態といった症状を呈することが多いようです。
レビー小体型認知症
脳の神経細胞にできるとされる特殊なたんぱく質(レビー小体)が大脳皮質や脳幹に蓄積することで脳の神経細胞が破壊され減少、それによって発症する認知症です。
なお、レビー小体型認知症の患者様の4割程度の患者様にアルツハイマー型認知症の原因でもあるβアミロイドたんぱくの蓄積が見受けられることもあります。
主な症状は、認知機能障害や幻視、妄想などの精神症状、またパーキンソンの症状でよく見られる手足の震え、筋肉が硬くなるといったものがみられるようになります。このほかにもレム睡眠行動障害、立ちくらみや失神といった自律神経症状も現れるようになります。
前頭側頭型認知症
頭の前部にある前頭葉と、横部にある側頭葉の神経細胞が脱落するなどして、これらが萎縮するなどして起きる機能低下によって、様々な症状が起きている状態を前頭側頭型認知症と言います。これにはピック病も含まれます。
この疾患は、65歳未満で発症することが多く、初期症状では、自制力の低下(人の話を聞かずにしゃべる など)や異常行動、帯同行動がみられ、そのうち言葉の理解ができなくなるなどの症状が出るようになるのが特徴です。
どんな人が認知症になりやすいか
一番のリスクは加齢です。
75歳~79歳で人口の7%、16人に1人であるのが、80歳~84歳で14.6%、7人に1人となり、85歳以上では27.3%、実に4人に1人が認知症になるという統計があります。
おそらく100歳を過ぎるほとんどの人は認知症になるといって良いのではないでしょうか。
よって誰でもなる可能性があるということです。
厚生労働省の調査では65歳以上の認知症患者は2012年で462万人とされており、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年には約700万人になると推測されています。
あと5年で高齢者の5人に1人が認知症になってしまうということであり、これは驚くべきことです。
認知症はどのように進行して行くのか
まず有名なアミロイド仮説というものを紹介致します。
実は40歳くらいの中年期から脳にアミロイドベータというものが貯まりだし、60歳代の初老期にタウ蛋白というものがリン酸化され、神経細胞の脱落が始まります。
その後、認知症の一つ手前の段階である軽度認知機能障害になり、これは専門用語でMCIと呼びますが、ある段階で認知症を発症します。
認知症の大半を占めるアルツハイマー型認知症では緩やかに10年ほどの経過で進行し、寝たきりになっていきます。
認知症の予防方法
発症前の生活が大きく関係します。
このような論文があります。
糖尿病や中年期の高血圧、中年期の肥満、うつ、身体的低活動、喫煙、低教育のすべてを無くすことができればアルツハイマー型認知症の50%以上が予防できるというものです。
すなわち、規則正しい食事や運動、禁煙などの生活習慣病を予防がそのまま認知症の予防になるということです。
認知症の治療
薬物療法
認知症のお薬があるということはご存知かもしれません。
ただ、認知症を治す薬はありません。
進行を遅らせる、周辺症状を改善することができる薬があるだけです。
治療薬を作るために幾多の研究が為されてきたのですが、ほぼうまくいっていません。
さらに現在の認知症治療薬には適応というものがあり、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に適応がある薬があるだけで、全ての認知症に効くという訳ではありません。
また、これらの薬はMCIになった場合の認知症発症予防薬になるという証拠もありません。
よって適切に診断が為された上での投薬がより重要になります。
アルツハイマー型認知症の患者様の場合、脳の神経細胞の破壊によって起きるとされる症状(記憶障害や見当識障害など)を可能な限り改善するようにしていきます。
具体的には、認知機能低下を改善させるお薬としてドネペジルなどを使用していきます。
また精神症状(不安、焦り、怒り、興奮、妄想など)がみられる場合は、非定型抗精神病薬や漢方薬を併用していきます。
レビー小体型認知症の薬物療法も同様ですが、パーキンソン病と同じ症状があれば、抗パーキンソン薬を使用することもあります。
また脳血管型認知症では、脳血管障害を再発させることでさらに認知症を悪化させてしまうので「再発予防」に向けた治療が必要になります。
そのため、脳血管障害の発症リスクを高くさせる、高血圧、糖尿病、心疾患などの治療をしっかり行っていき、脳梗塞などを再発させないための予防薬(高血圧であれば降圧剤 など)を用いるようにします。
なお、前頭側頭型認知症の場合は、現時点で有効な治療法が確立していません。
ただし、同疾患でみられる特徴的な症状については、対症療法として抗精神薬を使用していきます。
非薬物療法
非薬物療法とは、認知症患者様にまだ残っているとされる認知機能や生活能力を薬物のみに頼らずに高めていこうとする治療法です。
ちなみに認知症と医師から診断された時点の患者様に関してですが、その多くはまだご自身で行えることがたくさんあります。
したがって、まずは同居されるご家族の方からご本人様に向けてご家庭内で役割をつくる(洗濯物をたたむ、食器を片付ける 等)などして、前向きに日常生活を送れるようにすることが大切です。
また、昔の出来事を思い出してもらう(回想法)、無理をしない範囲で書き物の音読や書き取り・計算ドリルを行う(認知リハビリテーション)、音楽鑑賞や演奏をする(音楽療法)、花や野菜を育てる(園芸療法)、リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練:自分と自分のいる環境を正しく理解するための訓練)といった方法も効果的です。
認知症治療以外に大切なこと
ここで大事なのが、認知症の患者様の環境です。
周辺症状は環境により、その増悪が左右されるからです。
周辺症状というのは怒りやすくなったり、不安になったり、意欲がなくなったり、妄想を持つたりする症状です。
ひどくなると徘徊で行方不明になったり、異常な興奮の上、場合によっては暴力を振るうようになります。
これが認知症の患者様の介護を難しくしている要因です。
この周辺症状が暖かい家族や施設のもとで生活するのと、一人や荒んだ状態の中で生活をするので全く違ってきます。
だから面倒をみている家族が疲弊し、放置したり、辛く当たったりすると状況が悪化します。
でも家族だけで介護をすることには限界があります。
ここで地域の中で、認知症のご本人、家族を一緒にケアする体制が重要になってきます。
認知症の診断について
当院では、認知症が疑われる方の診察として、まず問診から行います。
その際に認知機能障害、記憶障害、日常生活に支障などがあるかといったことを確認し、必要に応じて器質的疾患が無いかどうかを頭部MRI検査で画像評価します。
認知症が強く疑われた場合は、後日物忘れ外来の予約をさせて頂き、認知機能検査や知能検査などの神経心理学的検査の追加、必要に応じて血液検査、脳波検査を施行させて頂き、ご家族やケアマネージャーなどを交えた詳細な診察の上で、今後どのように患者様を治療、ケアしていくかの対策を一緒に考えます。
認知症の早期診断は非常に大事であり、その治療に努めることができれば、現在の医療では完治は困難としても、進行を遅らせ、周囲の環境を整備し、ご本人やご家族が安心して暮らせるようにすることができます。
症状が気にならたら早めに診察に来られることが望まれます。
次のような症状がある場合はお気軽にご相談ください
- もの忘れがひどい
- 場所や時聞が分からなくなる
- 人柄が変わってしまった
- 判断や理解力が低下している
- 何事にも意欲がみられない
- 不安感が強い
ただご本人や同居されるご家族の方が認知症の症状を見極めるのは、なかなか難しいことと思われます。
そのため、上記のような症状に心当たりがあれば、ご本人や家族だけで悩まれ無いように、いつでも当院までお気軽にご相談ください。